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を要求しながら、コッペリウスを軸にすることによってコンセプトをより明確にし、現代性をもたせることに成功した。
とくに、コッペリアが人間に生まれ変わったことにコッペリウスが大喜びする終幕の幕切れは、再生を願う老境の希望を暗示させる味わい深い演出で好感がもてたのである。
第一幕「村の広場」の幕が上がると、舞台にはすでに、ピーター・ファーマーの茶系で統一した森と家並みが快い色彩のハーモニーを奏でている。スワニルダの衣裳はアイボリー、チャルダッシュのダンサーたちはグリーンと赤のドレス。ファーマーのデザインした衣裳や装置が醸しだす雰囲気を見ても、いかにライトの演出に寄り添い、際立たせているかがわかる。
活発なキャラクターそのままに、多彩なテクニックを駆使するスワニルダ役のサンドラ・マドウィックは、小柄ながら顔も体の動きにも豊かな表情を漏れさせて実に魅力的だ。そしてここでも踊りとマイム、音楽と劇的間合いを一体にしてしまう妙味を見せる。
つぎの第二幕「コッペリウス博士の仕事場」になると、一転してスリリングでドラマチックに盛り上がるので、観客の気分はここで一気に引き込まれる。スワニルダたちが等身大の人形たちの置いてある暗い家のなかを探検するのだが、コッペリアが実は人形だったりする。
ファーマーの美術は、科学という当時はまだあまり知られていない世界に抱いていた不気味さ、オカルト的なイメージを見事に具体化しているので、観客までもがスワニルダやフランツと同じようにどきどきした気分になれる。機械仕掛けの人形たちが演奏する音楽に合わせて、少女たちも踊り出すのだが、踊りと音楽とドラマチックな緊張感が一体になって、舞台を最高に盛り上げる。
とりわけスワニルダが人形になりすまし、そうとは知らずに生命が宿ったと思い込んでコッペリウスが感激するシーンが見所で、ちょっと滑稽で、笑いを誘われながらもちょっと悲しくなるのだ。
マドウィックは人形とスワニルダを巧みに演じ分けながら、部屋中を荒し回る。目をパチパチさせたり、人形としか思えないような細部にわたる人形ぶりと、柔らかな生きたスワニルダの動きと踊りを目まぐるしく切り換えて見せる。マイケル・オヘアもコッペリウスをリアルでいて無駄のない演技で見事に演じるのだが、そこに、緊密な演劇性を要求したピーター・ライト。演出のあり方を感じさせられたのである。
マイムとダンスを完全に融合させた上で、それを魅力的で味わい深いドリーブの音楽にのせて、畳み込んでいく。観客はそのスピーディなライトの話術に、ただひたすら取り込まれてしまうのである。
音楽そのもののような、隙のない動きとダンス。それが明快なキャラクターとアンサンブルを得て、いっそう迫力のある演劇的世界をつくったのが、まさにピーター・ライトの「コッペリア」だといえるだろう。
(かんの・たくや 評論家)

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英国でのバーミンガム・ロイヤル・バレエ団公演より

 

 

 

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